「かばおのノート」に次ぐ商品として、「かばおのキューブ」を発表しました。
これは、本にならなかった文字たちを無色透明のアクリルに閉じ込めたペーパーウエイトです。
そんな「かばおのキューブ」ができるまでをご紹介します。
「かばおのキューブ」はアクリル加工屋さんがつくっています
アクリル加工屋さんって?
今回、こちらの製作をお願いしたのは株式会社クリエイト築島(大阪府東大阪市)。
町工場のメッカ、東大阪。クリエイト築島はその地でアクリル製造・加工を行っている会社です。
雑貨としてのホテルキー製造や、アクリル製アクセサリー製造などがメインのお仕事。
現代表・築島克明さんの祖父が傘の手元(ハンドル)を木やアクリルなどの素材で製造していたのが始まりです。アクリル製の傘の手元は、今でも製造を続けています。
アクリル加工の現場
製本屋である私たちも同じ加工業ですが、一口に加工業といっても、扱う素材や完成品によって当然ながら全く違う世界です。例によって工業見学好きな私は、今回も「アクリル加工屋さんのお仕事場を知りたい!」とはるばる東大阪までお邪魔してしまいました。
そうだと思ったよ
一般的なアクリルの加工といえば、アクリルをカットしたり、研磨したりしていろんな形状の製品をつくります。
私が驚いたのは「バレル研磨」。
バレル研磨、はじめて聞きましたし、はじめて見ました。
樽のようなものがぐるぐると回って、その中では研磨材とアクリル製品が混ざり合っています。私の背丈ほどある研磨機が何台も並んでガラガラぐるぐると回転している様子は圧巻。
バレル研磨をかける前と後、なるほど一目瞭然、角がしっかりとれています。
研磨材にはその会社会社によっていろいろな素材を組み合わせたりして使うそうですが(企業秘密!)、これはその一つの竹。もともとの形から摩耗してここまですり減るのです。
研磨機からアクリルを取り出す作業は、まるで宝探しのよう。
アクリルは、小さな頃に憧れた、ぴかぴかの宝石のよう。
自分の傘の持ち手がこんな風に作られているのと思うと、世界が変わりませんか?
「見たこともない」アクリルを「つくる」
私がクリエイト築島さんを知ったのは、Instagramでした。
「#じゅしかわいい」のハッシュタグで発信されているアクリルたちは、カラフルでキラキラで、中にいろんなものが入っていて……今までホームセンターで見ていたようなアクリルとは全く違いました。
実はこれらは、すべてクリエイト築島の工場でゼロから作られています。
どこにも既製品として売っていない、オリジナルのアクリルです。
先代までは、既製のアクリルを仕入れ、その「加工」のみが事業だったそう。
しかし、会社を受け継いだ築島さんたちは新たにオリジナルのアクリルを「つくる」ことをはじめました。
アクリルはメタクリル酸メチルという液体原料でつくられています。
多くのアクリル屋は既製品のアクリル板やブロックなどを仕入れてそれを加工しています。
しかし、クリエイト築島では、液体原料から仕入れ、染料や顔料を混ぜてオリジナルの色をつけ、オリジナルのアクリルを自社でも製造しているのです。
「液体から固体にしている会社はそうそうないと思います」とは築島さん。
化学赤点の私には、お話しくださったことの半分くらいしか理解できなかったのですが、この事実が、私がInstagramで見た「見たこともないアクリル」を作り上げることができる理由だったのです。
「わからない」だからこそ生まれるもの
クリエイト築島のInstagramでもたびたび登場するマーブル柄のアクリル。
クリエイト築島でもかつては仕入れて加工していましたが、今後これを「つくれる人」がいなくなるかもしれないという危機感を抱えていたそうです。
加工業は、材料がなければ成り立たない仕事です。
「いざという時のために、自分でつくれるようになっておかないと」
私も加工業ですから、よくわかります。
でもこれって、すごい決断であり選択です。
うちでいうと「この本のこの紙をつくる製紙会社がなくなったらこの本はつくれないから、自分たちで木から紙をつくろう」ということです。
……正直、やろうとは思えません(笑)
「20年くらい前から、ずっと試行錯誤をしています」
築島さん兄弟はこう話します。
畑違いの仕事からアクリル屋を承継し、二人でずっと「試行錯誤」をしているのだそうです。
そしてできあがったものたちが、あの「見たこともないアクリル」たちなのです。
変な仕事ばかりできるようになった
そんなこんなで、顧客の「こんなのできるだろうか?」という無茶ぶりに試行錯誤で付き合ってきた結果、「変な仕事ばかりできるアクリル屋になってしまった」と築島さんたちは笑います。
そんな変な仕事の一つでもある今回のテキトーフォーミーの「かばおのキューブ」。
このアイテムは、本にならなかった「何かの本の中身」を一文字が入るか入らないかのサイズに細かく刻んだものを透明のアクリルに閉じ込めています。
まるで紙が水中や空中で舞っているその時間を止めたような、なんとも不思議な体験を私たちはすることができます。
これは、液体原料から扱えるクリエイト築島でなくては、できなかった商品です。
私の頭の中にあったものが、築島さんたちによって形になって目の前にあらわれた時には、本当に感動しました。
これからも「変な仕事」へのお付き合い、よろしくお願いいたします!
どんな町工場にも、そこにしかない試行錯誤の結果があります。
日々当たり前にやっているけれども、それは一朝一夕に生まれたものではありません。
町工場の試行錯誤ひとつひとつにリスペクトを持って「もの」と接することが大切であると「 テキトーフォーミー 」は考えます。
そんな、加工屋同士が生みだした見たこともない「かばおのキューブ」。
一つとして同じものはありません。
ぜひ、一文字一文字との出会いを楽しんでみてください。
きっと、あなただけのインスピレーションが湧いてくるはずです。
こぼればなし
自社にはない技術や設備に、いつも驚きと感動をもらえるのが、町工場です。
大人でもわくわくをもらえる場所。地域の子どもたちと地域の町工場、もっと繋げていけるような仕組みを作りたいなあ。そしてもっともっと「つくる」ことの楽しさを知ってほしいなあ。
個人的にそんな思いが募るのでした。